7月の地域医療連携事業講演会『低侵襲心臓手術「MICS」に取り組む』

公開日 2018年07月27日

 7月19日、当院3F講堂で地域医療連携事業講演会が開催されました。「当院における低侵襲心臓手術の取り組み」をテーマに、心臓血管外科の加納正志部長が患者の体の負担を少なくする術式「MICS」(ミックス、Minimally Invasive Cardiac Surgery)について、その概要、導入にあたっての先進病院での研修などについて話しました。

<低侵襲心臓手術>
低侵襲心臓手術とは、①手術侵襲を減らすこと、例えば人工心肺を使用しないオフポンプ冠動脈バイパスや大動脈に対するステントグラフト治療、②今回のテーマである「小さな傷で行う手術」、③医療コストの削減、などを一般的に意味します。

<開心術>
心臓手術は胸骨正中切開、すなわちまず胸骨を切るところから始まります。骨を切りますとその断端からの出血で、術後数日はドレーン(誘導管)の留置が必要です。また骨が接着までに通常2カ月を要するといわれ、その間に胸骨離開や骨髄炎(縦隔炎)を生じると治療に難渋します。また退院しても骨が接着するまで車の運転や重い物を持てない等の生活制限がかかります。
そこで1990年代には、胸骨部分切開や肋間切開による手術(MICS)が試みられました。しかし手術視野の不良や特化した手術器具がないこと、また創を小さくしても人工心肺の侵襲は避けられない等の理由により数年で衰退してしまいます。
その後、手術器具の改良などで約10年前より再びMICS手術が行われるようになってきました。

<胸骨を切らず、早期回復実現>
現在、MICSとは主として肋間開胸による小切開心臓手術を意味します。この手術は胸骨を守るということがコンセプトです。肋間アプローチの利点として、①傷が目立たない、②傷の痛み(個人差はあるが)の軽減、③術後縦隔炎、胸骨離開の回避、④出血・輸血量の減少等が挙げられます。そしてなにより術後の回復が早く、早期退院・早期社会復帰が期待できるため、農作業のような肉体労働従事者やタクシー運転手には非常に利点のある手術です。
一方、欠点として、①手術難易度が高くなる事による手術時間、心停止・人工心肺時間の延長、②人工心肺アクセスのトラブル、③逆行性送血による脳梗塞のリスク増、④合併症への迅速な対応が困難、⑤再膨張性肺水腫(原因は不明だが長時間の手術に生じやすい)などの問題点もあります。

<研修>
MICSを導入するにあたって、心臓病センター榊原病院(岡山)で、3カ月の研修を行わせて頂きました。日本心臓外科のパイオニア的存在である榊原兄弟の兄・亨氏が立ち上げた病院です。研修当時、心臓手術数が年間約600件、心臓弁膜症手術は年間270件で、うち3割をMICSで行っていました。冠動脈バイパス手術、大血管手術も多く、3カ月間でMICSによる僧帽弁形成術11例、大動脈弁置換8例を見る事ができました。
いろいろなこだわりのある病院で、患者を「病客様」と呼ぶことや、緊急手術を要する患者受け入れの際のドクターカーの活用、節電対策など印象的なことが数多くありました。特にチーム医療が素晴らしく、ICU回診では医師、リハビリ、ME、技師達が一緒になって行い、患者情報を共有してそれぞれの立場で最善の治療にあたるという姿勢に感心しました。

<当院MICSスタート>
当院は2017年からMICS手術を始めました。現在までに3名に対し大動脈弁置換、左房粘液腫摘出、僧帽弁形成術を試みました。非常に利点のある手術ですので、適用があれば今後も実施していきたいと思っています。ご興味のある方がいらっしゃいましたら是非ご紹介いただければ幸いです。本日はどうもありがとうござました。

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